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自殺からの生還 ―自殺の背景に多いのはうつ病です―

誰が、どうやっても、防げない自殺もあるかもしれません。
しかし、防ぐことのできる自殺も少なくありません。
防ぐことのできる自殺の一つに、うつ病による自殺があります。

自殺が起こる背景には、多くの場合、うつ病、アルコール依存、薬物依存、統合失調症など、「こころ」の病気がひそんでいます。このなかでも、もっとも割合が高いのは、うつ病です。

うつ病になると、心が疲れきって、適切な判断や決断ができなくなります。悪いことばかりを考えるようになり、将来に希望が見出せず真っ暗に思えます。そして、絶望感と孤独感に押しつぶされそうになり、死んでこの苦しみから逃れたいと思うようになります。苦しみが、死の恐怖よりも強くなってしまうのです。

うつ病の人は死にたいから死ぬのではありません。うつ病によって、自殺という間違った選択を強いられるのです。

実はうつ病は、脳のなかの神経に作用する物質の働きが悪くなって起こることが解明されています。ですから、適切な治療を受けることで治る病気とも言えます。

うつ病を治すことがすなわち、自殺を予防することになるのです。

しかし、うつ病とは全く気づかずに苦しんでいる人もいます。

また、「思い当たる原因があるのだから、落ち込んで当たり前」と思っている間に、うつ状態を通り越して、うつ病になってしまっている人もいます。

身近にいる人が、このごろ疲れきってあまりにも元気がないときや、不眠や食欲不振を漏らすときなどは、うつ病である可能性も考えて、一度、精神科の医師を受診してもらって下さい。

「どこにも、出口が見つからない、もう死ぬしかないと思っているんですか? 人は一人では生きていけません。これまで、あなたが多くの人に助けられてきたように、また、多くの人を助けてきたように、今回のことも、自分一人でがんばろうとせずに、人に頼るのも一つの方法ですよ」と、その精神科医は言いました。Aさんは、その言葉にほんの少しの希望の光を見た思いがしました。そして、うつ病について聞かされた説明は、まさに自分のことだったのです。

55歳のAさんは、リストラで退職。職安巡りをしても、人の多さに圧倒されてうなだれて帰る日々が続きました。唯一の収入源の失業保険も打ち切りの日が近づいてきたある日、ふとみると近くのマンションに目がとまりました。Aさんは、よく分からない衝動に突き動かされるようにフラフラと最上階まで上り、屋上から飛び降りようとしました。しかし、屋上に出る扉にはかぎがかかっていました。窓を割ろうとしましたが、窓ガラスは割れず、Aさんは"俺は何をやってもダメだ、死ぬことすらできない"と、肩を落として家に戻りました。

Aさんの様子がおかしいことに家族は気づいていました。奥さんが再三病院に行くことをすすめても、"医者が仕事を見つけてくれるのか!"と、とりつく島もありませんでした。そんなAさんを、奥さんとお兄さんがなかば強引に精神科診療所に連れて行ったのは、その翌日のことです。

うつ病と診断され、抗うつ薬や睡眠導入剤を服用し、悩みを医師に相談するうちに、Aさんの気持ちは少しずつ変わってきました。

あれから3年、Aさんは、まだ仕事を探しています。しかし、うつ病が治り、周りのことが見えるようになったAさんは、家族で力を合わせて暮らしています。

そして「あの時は追いつめられた感じで死ぬしかないと思っていました。今から思うと不思議です。仕事がないことは不安ですが、自分のいのちや家族の不幸と引き替えにするほどの問題ではなかった。楽しいことだってあります。うつ病になったことで、気づかされたこともたくさんありますよ。」と、当時のことを振り返ります。

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